flowchart LR
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A["序論<br>(Introduction)<br>研究の背景・先行研究<br>研究目的や問い"] --> B["方法<br>(Methods)<br>調査対象<br>データの収集・分析方法"]
B --> C["結果<br>(Results)<br>分析の知見<br>仮説の検証結果"]
C --> D["考察<br>(Discussion)<br>結果の整理と考察<br>限界や今後の課題"]
A:::intro
B:::method
C:::result
D:::discussion
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キーワード
エスニシティ、移民、ナショナリズム、多文化、差別、マジョリティ/マイノリティ
背景・目的
- このページは各大学で担当してきたエスニシティ、移民、排外主義、ナショナリズムなどの授業のために準備した参考資料である。
- 学生には「道具箱」として使えるようなリソースがあると有益だろうというのと、自分も一度指導のための頭の整理がしたいという理由で準備した。
- あくまで参考資料であり、授業の内容や進行はこの限りではない。必要に応じて逐次更新していく、永遠のβ版と考えてほしい。
授業の概要
🚧Under Construction🚧
主要な理論・概念図式
🚧Under Construction🚧
卒論の執筆
卒論の指南書
そもそも卒論(論文)ってどう書くのか、研究計画はどうやって立てるのかについては以下が参考になる。
- マラニー,トーマス・S・レア,クリストファー,2023,『リサーチのはじめかた:「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法』安原和見訳,筑摩書房.
- 麦山亮太,2025,「Rによる社会調査データ分析の手引き」(https://ryotamugiyama.github.io/seminar_sociology_r
- 小熊英二,2022,『基礎からわかる論文の書き方』講談社.
- 戸田山和久,2022,『最新版 論文の教室:レポートから卒論まで』NHK出版.
論文のフォーマット
論文のフォーマットには色々あるが、もっともオーソドックスなのはIMRAD(Introduction, Methods, Results, and Discussion)と呼ばれるものである。図解すれば以下のようになる。
あくまで一般的なモデルであって絶対にこうしなければならないというものではない。社会学系の論文では、特に、「序論」と「方法」の間に「先行研究レビュー」を置いて、5ステップにすることも多い。
主要文献
トピックごとに主要な文献を紹介する。なお、以下の文献はあくまで参考であり、授業の内容や進行はこの限りではない。
エスニシティ、ネーション、ナショナリズム
祖先や言語、宗教、身体の形質、領土、国民的出自、歴史的経験などの共通性にもとづいて自分や他人を様々な集団に分類し認識することを社会科学ではエスニシティという1。社会科学におけるその概念の発展の経緯については以下がわかりやすい。
- Ben-Rafael, Eliezer and Yistzhak Sternberg, 2015, “Ethnicity, Sociology of,” James D. Wright ed., International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences: Second Edition, Amsterdam: Elsevier Inc., 157–61.
- Bös, Mathias, 2015, “Ethnicity and Ethnic Groups: Historical Aspects,” James D. Wright ed., International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences: Second Edition, Amsterdam: Elsevier Inc., 136–41.
- 金明秀,2017,「エスニシティ」盛山和夫・金明秀・佐藤哲彦・難波功士編『社会学入門』ミネルヴァ書房,127–43.
またエスニシティにもとづいた集団が特定の国家という政治組織の存在や要求と結びついた状態をネーション、ネーションの利益や維持を求める意識や活動のことをナショナリズムという。ネーションとナショナリズムの文献も多岐にわたるが、特にエスニシティとの関係を踏まえて論じたものとして以下が有益である。
- 林泉忠,2024,「ナショナリズムとエスニシティ」中溝和弥・佐橋亮編『世界の岐路をよみとく基礎概念:比較政治学と国際政治学への誘い』岩波書店,33–57.
- 塩川伸明,2008,『民族とネイション:ナショナリズムという難問』岩波書店.
ナショナリズムの総論としては
- Chatterjee, Partha, 2015, “Nationalism: General,” James D Wright ed., International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences: Second Edition, Elsevier, 262–65.
- グリーンフェルド,リア,2023,『ナショナリズム入門』慶應義塾大学出版会.
- 大澤真幸・塩原良和・橋本努・和田伸一郎編,2014,『ナショナリズムとグローバリズム:越境と愛国のパラドックス』新曜社.
- スミス,アントニー・D,2018,『ナショナリズムとは何か』筑摩書房.
- 植村和秀,2014,『ナショナリズム入門』講談社.
などが参考になるだろう。その上で計量的データからその現代における動向を俯瞰できる以下の文献などを読むとよい(排外主義の文献と一部重複する)。
- 中井遼,2024,『ナショナリズムと政治意識:「右」「左」の思い込みを解く』光文社.
- 田辺俊介編,2019,『日本人は右傾化したのか:データ分析で実像を読み解く』勁草書房.
日本におけるナショナリズムの発展を扱ったものも多岐にわたる。代表的なものは以下。
- 牧原憲夫,1998,『客分と国民のあいだ:近代民衆の政治意識』吉川弘文館.
- 小熊英二,1995,『単一民族神話の起源:「日本人」の自画像の系譜』新曜社.
- 尹健次,1994,『民族幻想の蹉跌:日本人の自己像』岩波書店.
このほか、個別の事例や時期を扱ったもの、より専門的なものについては別途紹介する。
多文化主義・シティズンシップ・アファーマティブアクション
現代のネーションの多くでは複数のエスニシティをもつ集団が共存し、両者の間の関係や不平等がしばしば政治的文化的争点となる。この観点から問題となるのがどのようにマイノリティを統合する、つまり社会参加の機会を提供するか、である。20世紀後半に登場しある程度定着したのが多文化主義、つまり異なる文化・エスニシティの存在を尊重する施策や活動である。
多文化主義の代表的理論家がウィル・キムリッカである。その代表作が
- キムリッカ,ウィル,1998,『多文化時代の市民権:マイノリティの権利と自由主義』角田猛之・石山文彦・山崎康仕訳,晃洋書房.
であり、古いとはいえ今でも多文化主義を真面目に取り上げようとするなら避けられない古典の位置を確立している。彼自身がその後の現代的動向を踏まえてその理論をより時評的に論じた
- キムリッカ,ウィル,2012,『土着語の政治:ナショナリズム・多文化主義・シティズンシップ』岡﨑晴輝・施光恒・竹島博之・栗田佳泰・森敦嗣・白川俊介訳,法政大学出版局.
- キムリッカ,ウィル,2018,『多文化主義のゆくえ:国際化をめぐる苦闘』法政大学出版局.
なども有用である。より個別的もしくは平易に多文化主義を論じたものとしては、
- 飯田文雄編,2020,『多文化主義の政治学』法政大学出版局.
- 塩原良和,2012,『共に生きる:多民族・多文化社会における対話』弘文堂.
などが挙げられる。
キムリッカとはいささか異なる立場からマイノリティ一般の権利という観点から重要な影響力ある議論を展開してきたアイリス・マリオン・ヤングの議論も大変刺激的である2。
- ヤング,アイリス・マリオン,2020,『正義と差異の政治』飯田文雄・茢田真司・田村哲樹・河村真実・山田祥子訳,法政大学出版局.
多文化主義の一形態ともいえ、同時に多文化主義そのものと同じくらい一つのトピックとして豊富に議論されるマイノリティ権利保証の施策とされるのが、いわゆる積極的差別是正措置、「人種や性別などに由来する事実上の格差がある場合に、それを解消して実質的な平等を確保するための積極的格差是正措置ないし積極的改善措置」3である。この呼称は国・地域によって様々だが、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどのいわゆる古典的移民受け入れ国でアファーマティブ・アクション(affirmative action)と呼ばれることが多いのに対し、ヨーロッパ諸国ではポジティブ・アクション(positive action)と呼ばれることが多い4。その総論としては、やや古いが、
- 辻村みよ子,2011,『ポジティヴ・アクション:「法による平等」の技法』岩波書店.
が優れている。とりわけこの制度が広く議論され発展してきたアメリカ合衆国のアファーマティブ・アクションに焦点を当てたものとしては、
- 川島正樹,2014,『アファーマティヴ・アクションの行方:過去と未来に向き合うアメリカ』名古屋大学出版会.
- 南川文里,2024,『アファーマティブ・アクション:平等への切り札か、逆差別か』中央公論新社.
が有益である。
差別、排外主義
差別はきわめて重大であると同時に論争的な概念だが、「ある集団やその成員が、他の集団やその構成員よりも優位になるような行為、政策、慣行、社会構造を産出し、維持し、強化すること」5、「不利なカテゴリーや集団の一員としての属性をもつことを理由に、他の点では似たような個人を不平等に扱うこと」6を指すことが一般的である。特定の集団・カテゴリーのメンバーであることが根拠になること、特定の集団の成員が別の集団の成員より不遇されること、その主体は多様であることなどがその要諦として広く認識されている。ただし、その細部をどう把握するかについては規範的・理論的な視点からかなり活発な議論が交わされている。その構図を俯瞰するためには、
- 池田喬・堀田義太郎,2021,『差別の哲学入門』アルパカ.
- 木村草太,2023,『「差別」のしくみ』朝日新聞出版.
を読むと良い。前者は哲学・倫理学、後者は法学を背景としているが、重なるところも多い。
特にエスニシティや移民についていえば、差別と関連深いのが排外主義とかレイシズムといった概念だ。排外主義とは「移民や外国人、人種・エスニックマイノリティに対する嫌悪感や忌避感といった否定的な感情や態度」7を指す。たんに「差別」と言う場合の要点は、それがだれかを特定の仕方で扱うという行為の問題だが、「排外主義」の場合は態度とか感情といった心的側面も重要になってくる8。差別と排外主義を扱った文献は山程あるが、エスニシティや移民との関係で基礎的かつ体系的にまとめたものは多くない。最新かつ極めて優れたレビュー文献として、まずは
- 五十嵐彰,2025,『可視化される差別:統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義』新泉社.
本書は社会科学全般における広範なレビューだが、心理学に特化した文献では意識・態度の問題にもさらに踏み込んでいる。
- エバーハート,ジェニファー,2020,『無意識のバイアス: 人はなぜ人種差別をするのか』山岡希美訳,明石書店.
- 北村英哉・唐沢穣編,2018,『偏見や差別はなぜ起こる?:心理メカニズムの解明と現象の分析』ちとせプレス.
が強く推奨される。前者は社会学・政治学・心理学が主な背景とし、後者は心理学を主な背景としているが、後者はジェンダーやセクシュアリティや障害などの差別も扱っており、エスニシティや移民に限らない。
これらを踏まえつつ具体的な事例や現象を見ていくといいだろう。差別全般の主要な動向を近代日本の歴史にそって描いたものとしては
- 黒川みどり・藤野豊,2015,『差別の日本近現代史:包摂と排除のはざまで』岩波書店.
- 西原和久・杉本学編,2021,『マイノリティ問題から考える社会学・入門:差別をこえるために』有斐閣.
などがある。現代日本の排外主義とその背景については、
- 樋口直人,2014,『日本型排外主義:在特会・外国人参政権・東アジア地政学』名古屋大学出版会.
- 小熊英二・樋口直人編,2020,『日本は「右傾化」したのか』慶應義塾大学出版会.
などがある。
- 樽本英樹編著,2018,『排外主義の国際比較:先進諸国における外国人移民の実態』ミネルヴァ書房.
レイシズム
差別や排外主義と関連が深いのがレイシズム(人種主義)の概念である。レイシズムは「出自ないし深い文化的愛着(とりわけ祖先、人種、肌の色、エスニックないしナショナルな出自、および宗教的つながり)に結びつけられた指標を用いることで、何らかの集団をある地位ヒエラルキー上のより低い位置に置くこと」9とか、「遺伝的で不変的な差異に基づき、あるエスニック集団を他のエスニック集団が支配または排除することを是認するイデオロギー」10と定義される。もっと簡素にいえば、「民族的人種的国民的な出自による排除や差別」くらいの意味である。排外主義と類似していると思うかもしれないが、排外主義はどちらかといえば移民・外国人一般を対象とした偏見や差別、レイシズムは移民に限らずエスニシティ―とくに血統とか人種―を根拠にする差別・偏見を指すことが多い11。レイシズム論の導入としては、その概念上の要点と世界史的な発展を扱った以下の文献が有用である。
- 平野千果子,2022,『人種主義の歴史』岩波書店.
- フレドリクソン,ジョージ・M,2009,『人種主義の歴史』みすず書房.
- Fredrickson, G. M., 2015, “Racism, History of,” James D. Wright ed., International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences: Second Edition, Amsterdam: Elsevier Inc., 852–56.
- ラッタンシ,アリ,2021,『14歳から考えたいレイシズム』すばる舎.
やや抽象的で難しいと感じられるかもしれないが、より理論的な文献も有益なものが多い。
- Augoustinos, Martha and Danielle Every, 2015, “Racism: Social Psychological Perspectives,” James D. Wright ed., International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences: Second Edition, Amsterdam: Elsevier Inc., 864–69.
- Clair, Matthew and Jeffrey S. Denis, 2015, “Racism, Sociology of,” James D. Wright ed., International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences: Second Edition, Elsevier, 857–63.
- 梁英聖,2020,『レイシズムとは何か』筑摩書房.
- ヴィヴィオルカ,ミシェル,2007,『レイシズムの変貌:グローバル化がまねいた社会の人種化、文化の断片化』森千香子訳,明石書店.
- 竹沢泰子,2023,『アメリカの人種主義:カテゴリー/アイデンティティの形成と転換』名古屋大学出版会.
その形態は歴史や社会によってきわめて多様であり、学習においてもその多様性を踏まえる必要がある。日本について多くを割いた文献として以下が挙げられる。
- 原由利子,2022,『日本にレイシズムがあることを知っていますか?:人種・民族・出自差別をなくすために私たちができること』合同出版.
- 一橋大学社会学部貴堂ゼミ生&院ゼミ生有志・貴堂嘉之,2025,『改訂版 大学生がレイシズムに向き合って考えてみた:差別の「いま」を読み解くための入門書』明石書店.
- 河合優子,2023,『日本の人種主義:トランスナショナルな視点からの入門書』青弓社.
- 清原悠編,2021,『レイシズムを考える』共和国.
- 高史明,2015,『レイシズムを解剖する:在日コリアンへの偏見とインターネット』勁草書房.
ヘイトスピーチとヘイトクライム
ヘイトスピーチとは「人種、民族、宗教、性別等の集団に対して、憎悪等を表明する表現」12、ヘイトクライムとは「皮膚の色、言語、宗教または信念、国籍または民族的・種族的出身、世系、年齢、障害、性別、ジェンダー、ジェンダーアイデンティティおよび性的指向等の属性を理由として、その集団またはその構成員に対して行われる犯罪」を指す13。これらは特に悪質で露骨な差別やレイシズムの形態として、あるいは重要な法的トピックとして、豊富な議論がある。
ヘイトスピーチとヘイトクライムは一般にその法的規制の動向とセットで論じられることが多い。特にヘイトスピーチは表現の自由の法理との関係が話題になることが極めて多い。
- ブライシュ,エリック,2014,『ヘイトスピーチ:表現の自由はどこまで認められるか』明戸隆浩・池田和弘・河村賢・小宮友根・鶴見太郎・山本武秀訳,明石書店.
- 本多康作・八重樫徹・谷岡知美編,2024,『ヘイトスピーチの何が問題なのか:言語哲学と法哲学の観点から』法政大学出版局.
- Levin, Jack and Jack McDevitt, 2015, “Hate Crimes,” James D. Wright ed., International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences: Second Edition, Amsterdam: Elsevier Inc., 540–45.
- 師岡康子, 2013, 『ヘイト・スピーチとは何か』岩波書店.
- 櫻庭総・奈須祐治・桧垣伸次・金尚均編,2024,『ヘイトクライムに立ち向かう:暴力化する被害の実態と法的救済』日本評論社.
- 鵜塚健・後藤由耶,2023,『ヘイトクライムとは何か:連鎖する民族差別犯罪』KADOKAWA.
植民地主義・歴史修正主義
現代社会における移民・先住民などのエスニックマイノリティの存在は植民地主義の問題と密接に関係している。さらに植民地主義やエスニックマイノリティへの差別の問題をめぐっては、歴史修正主義、すなわち「歴史的事実の全面的な否定を試みたり、意図的に矮小化したり、一側面のみを誇張したり、何らかの意図で歴史を書き換えようとすること」が生じやすい14。
世界規模での植民地支配一般については、あまり多くないが、以下が有用だろう。
- ケネディ,デイン,2023,『脱植民地化:帝国・暴力・国民国家の世界史』白水社.
- 中村隆之,2020,『野蛮の言説:差別と排除の精神史』春陽堂書店.
- Reinhard, Wolfgang, 2015, “Colonization and Colonialism, History of,” James D. Wright ed., International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences: Second Edition, Elsevier, 223–27.
日本における植民地支配については膨大な文献が存在する。地域別のものが多いが、総論としては、
- 水野直樹・藤永壯・駒込武編,2001,『日本の植民地支配:肯定・賛美論を検証する』岩波書店.
- 小熊英二,1998,『「日本人」の境界:沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮植民地支配から復帰運動まで』新曜社.
- 大日方純夫,2021,「おさらい日本の近現代史(第2回)日本近現代史における「日本」の範囲」『Web日本評論』,(2023年11月23日取得,https://www.web-nippyo.jp/24675/).
などが優れている。地域別については別途紹介する。
歴史修正主義については、なによりもまず、
- 武井彩佳,2021,『歴史修正主義:ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』中央公論新社.
を強く勧める。
移民
現代社会においてエスニシティの多様化とかそれによる不平等・差別が話題になるとき、多くの場合その議論の中心に位置づけられるのは移民である。移民は出身国とは異なる国から離れて別の国に定住している人のことを指す。
移民という集団は古今東西に存在するが、その歴史的な発展を世界史的水準で俯瞰したものとして、
- ハルツィヒ,クリスティアーネ/ヘルダー,ディルク/ガバッチア,ダナ,2023,『移民の歴史』筑摩書房.
- パーカー,フィリップ,2023,『世界の移民歴史図鑑』原書房.
がわかりやすい。
政治・経済・文化などの多様な観点から、受け入れ社会で移民をどう受け入れ、統合していくかが重要な争点となる。理論的な視点も踏まえてわかりやすくこれらの論点を概観するには、
- Bloemraad, Irene, Victoria M Esses, Will Kymlicka, and Yang-Yang Zhou, 2023, Unpacking Immigrant Integration: Concepts, Mechanisms, and Context, World Bank World Development Report 2023 Background Paper, Washington, D.C.: World Bank.
- ブルーベイカー,ロジャース,2016,『グローバル化する世界と「帰属の政治」:移民・シティズンシップ・国民国家』佐藤成基・高橋誠一・岩城邦義・吉田公記訳,明石書店.
- コーザー,カリド,2021,『移民をどう考えるか:グローバルに学ぶ入門書』平井和也訳,勁草書房.
- 宮島喬・佐藤成基・小ヶ谷千穂編,2023,『改訂版 国際社会学』有斐閣.
- 樽本英樹,2023,『国際社会学・超入門:移民問題から考える社会学』有斐閣.
が有益であろう。
移民の受け入れや統合が顕著な争点となってきたのは欧米諸国であるが、日本もその例外ではなくなりつつある。日本におけるこれらの論点を欧米との比較や理論的視座も交えて論じた有益な文献として
- 宮島喬,2022,『「移民国家」としての日本:共生への展望』岩波書店.
- 永吉希久子,2020,『移民と日本社会:データで読み解く実態と将来像』中央公論新社.
- 永吉希久子編,2021,『日本の移民統合:全国調査から見る現況と障壁』明石書店.
- 額賀美紗子・芝野淳一・三浦綾希子編,2019,『移民から教育を考える:子どもたちをとりまくグローバル時代の課題』ナカニシヤ出版.
- 田中宏,2013,『第3版 在日外国人:法の壁,心の溝』岩波書店.
- 髙谷幸編,2019,『移民政策とは何か:日本の現実から考える』人文書院.
- 渡戸一郎・井沢泰樹編,2010,『多民族化社会・日本:「多文化共生」の社会的リアリティを問い直す』明石書店.
などが挙げられる。
当然ながら、移民の受け入れや統合のあり方は時代や社会によって千差万別である。日本の現状について知りたい場合は、直前に列挙した文献にくわえて、以下の文献などで集団ごとの歴史を把握するのも大事である。
- 水野直樹・文京洙,2015,『在日朝鮮人:歴史と現在』岩波書店.
- 文京洙,2007,『在日朝鮮人問題の起源』クレイン.
- 外村大,2004,『在日朝鮮人社会の歴史学的研究:形成・構造・変容』緑蔭書房.
先住民族
伝統的に集団として所有してきた土地が入植者によって侵略され、(半)強制的に異なるネーションに対応する国家に組み込まれてきた人々のことを先住民族という15。その全体的な動向を扱ったものとしては、
- 深山直子・丸山淳子・木村真希子編,2018,『先住民からみる現代世界:わたしたちの「あたりまえ」に挑む』昭和堂.
- 上村英明,2015,『新・先住民族の「近代史」:植民地主義と新自由主義の起源を問う』法律文化社.
が参考になる。先住民族そのものではないが、関連する人権政策の世界的動向を論じたものとして
- 筒井清輝,2022,『人権と国家:理念の力と国際政治の現実』岩波書店.
も有益である。そのほか、日本における先住民族の問題を扱ったものとしては、以下が挙げられる。
- 岡和田晃・ウィンチェスター,マーク編,2015,『アイヌ民族否定論に抗する』河出書房新社.
- 坂田美奈子,2018,『先住民アイヌはどんな歴史を歩んできたか』清水書院.
- シドル,リチャード,2021,『アイヌ通史:「蝦夷」から先住民族へ』岩波書店.
その他のマイノリティ
そもそもマイノリティ集団といってもその種類は極めて多様であるのだが、マイノリティの権利保証やアイデンティティの主張を特に現代において先鋭的に展開してきたのはアフリカ系アメリカ人である。その経験や運動の歴史は多くのマイノリティに直接影響を与えているだけでなく、類似した部分も多い。その基本を把握するには、
- 明石紀雄・飯野正子,2011,『第3版 エスニック・アメリカ:多文化社会における共生の模索』有斐閣.
- バーダマン,ジェームス・M,2020,『アメリカ黒人史:奴隷制からBLMまで』筑摩書房.
- 上杉忍,2024,『増補版 アメリカ黒人の歴史:奴隷貿易からオバマ大統領、BLM運動まで』中央公論新社.
などが有用だろう。
- 阿久澤麻理子,2023,『差別する人の研究:変容する部落差別と現代のレイシズム』旬報社.
- 下地ローレンス吉孝,2018,『「混血」と「日本人」:ハーフ・ダブル・ミックスの社会史』青土社.
交差性(インターセクショナリティ)
インターセクショナリティとは、交差する権力関係が、様々な社会にまたがる社会的関係や個人の日常的経験にどのように影響を及ぼすのかについて検討する概念である。分析ツールとしてのインターセクショナリティは、とりわけ人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティ、ネイション、アビリティ、エスニシティ、そして年齢など数々のカテゴリーを、相互に関係し、形成しあっているものとして捉える。インターセクショナリティは、世界や人々、そして人間関係における複雑さを理解し、説明する方法である。(=16)
- コリンズ,パトリシア・ヒル/ビルゲ,スルマ,2021,『インターセクショナリティ』人文書院.
- コリンズ,パトリシア・ヒル,2024,『インターセクショナリティの批判的社会理論』勁草書房.
- 土屋和代・井坂理穂編,2024,『インターセクショナリティ:現代世界を織りなす力学』東京大学出版会.
マイクロアグレッション
- スー,デラルド・ウィン,2020,『日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション:人種、ジェンダー、性的指向:マイノリティに向けられる無意識の差別』明石書店.
- ンゴ,ヘレン,2023,『人種差別の習慣:人種化された身体の現象学』青土社.
文学・芸術
- 岡田温司,2020,『西洋美術とレイシズム』筑摩書房.
- 小田原のどか・山本浩貴編,2023,『この国の芸術: 「日本美術史」を脱帝国主義化する』月曜社.
生成AIツールの活用
日進月歩の領域であるので、すぐに役に立たなくなる可能性もあるので、最新の情報は各自で調べてほしい。使い方には倫理的・技術的・社会経済的等々の様々な問題があるのだが、もはやまったく使わないのはもったいない&非効率な段階に入っているのはたしか。「使うか使わないか」というよりは「どう使うか」という段階に入っている。ただし、使用する際は後述する注意点を必ず守ること。
主な用途
卒業論文執筆におけるAIツール活用
以下にいくつかの生成AIの活用例を挙げておく。あくまで参考であり、実際に使う場合は自分の研究テーマやデータに合わせて柔軟にカスタマイズする必要がある。
| 機能 | ツール | 具体的な使い方 |
|---|---|---|
| テーマ・問いの探求・具体化 | 様々 | 自身のリサーチクエスチョンを明確にするためのブレインストーミングや、多様な視点からの問いの設定を補助する。俗に言う「壁打ち」。 |
| 論文アウトラインの検討 | 様々 | リサーチクエスチョンや収集した文献情報を基にアウトラインの提案をさせる。 |
| 基本的な文献検索 | Perplexity AI | 論文テーマに関連するキーワードや問いを入力することで、関連性の高い論文や記事、書籍などの文献情報を効率的に検索できる。出典元が明記されるため、情報の信頼性を確認しやすい。 |
| 詳細な文献探索 | GeminiやChatGPTのDeep Search | 通常の検索では見つけにくい、特定の概念に関する詳細な議論や、ニッチな研究分野の文献を探す。複数のキーワードを組み合わせた複雑なクエリにも対応し、関連性の高い情報を深掘りできる。 |
| 外国語文献の読解 | DeepL | 英語など外国語で書かれた文献を日本語に翻訳する際に使う。学術的な文章の翻訳精度が高いとされており、専門用語なども比較的正確に訳せる。ただし、翻訳結果のみに依拠せず、原文と照らし合わせながら内容を理解することが欠かせない。 |
| 質的研究データの分析補助 | (参考)ユーザーローカル「AIテキストマイニング」 | インタビューデータや質的なアンケート回答、フィールドワークのメモなどのテキストデータをAIで分析し、出現頻度の高い単語や共起表現、感情などを抽出するのに使用できる。 |
| 文章表現の改善と誤字脱字チェック | (参考)ユーザーローカル「文章校正AI」 | 執筆した文章の文法ミス、誤字脱字、不自然な表現などをチェックし、修正案を提示してくれる。ただし、内容の妥当性や論理構成は自身で責任を持つ必要がある。 |
| 長文の要約と情報整理: | Google NotebookLM | 複数の文献や資料をアップロードし、その内容をAIに要約させることができる。情報を効率的に分類・把握・取捨選択するのに効果的。 |
AIツール利用上の注意点(使用する場合は必読!)
- AIの出力はあくまで参考情報である。情報の真偽や内容の妥当性は必ず自身で確認しなければならない。論文が論文である限り、書き手に責任が帰属することは避けられない。
- AIが生成した文章をそのまま論文として使用することは剽窃にあたる。出力結果を吟味・加工・修正する工程を省いてはならない。
- AIに機密情報や個人情報を入力してはならない。調査で取得した情報もモデルにもよるが情報漏洩のリスクが大抵は付随する。データの匿名化・仮名化を徹底するか、オフラインで利用可能な分析手法との組み合わせを検討する必要がある。
- 使用するAIツールの利用規約を確認しておくことが望ましい。
- 生成AIをめぐる動向は目まぐるしい勢いで変化する。1週間前の常識が通用しなくなるのも珍しくないので、そこは各々の利用する目的や状況に応じて柔軟に検討や工夫をすることが求められる。
研究事例と研究デザイン
🚧Under Construction🚧
Footnotes
五十嵐彰,2025,『可視化される差別:統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義』新泉社,24.↩︎
ちなみに筆者のすべての授業の内容はキムリッカとヤングの規範理論からかなり強い影響を受けている。↩︎
辻村みよ子,2011,『ポジティヴ・アクション:「法による平等」の技法』岩波書店,72.↩︎
辻村みよ子,2013,『人権をめぐる十五講:現代の難問に挑む』岩波書店,71.↩︎
Dovidio, John F, and Elif G. Ikizer. 2019. “Discrimination.” Oxford Bibliographies. https://www.oxfordbibliographies.com/display/document/obo-9780199828340/obo-9780199828340-0233.xml.↩︎
Fibbi, Rosita, Arnfinn H. Midtbøen, and Patrick Simon. 2021. Migration and Discrimination. Cham: Springer International Publishing, 19.↩︎
五十嵐彰,2025,『可視化される差別:統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義』新泉社,205.↩︎
五十嵐彰,2025,『可視化される差別:統計分析が解明する移民・エスニックマイノリティに対する差別と排外主義』新泉社,205.↩︎
Bleich, Erik, 2011, The Freedom to Be Racist?: How the United States and Europe Struggle to Preserve Freedom and Combat Racism, Oxford: Oxford University Press, 157.↩︎
Fredrickson, G. M., 2015, “Racism, History of,” James D. Wright ed., International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences: Second Edition, Amsterdam: Elsevier Inc., 852.↩︎
Hervik, Peter, 2015, “Xenophobia and Nativism,” James D. Wright ed., International Encyclopedia of the Social & Behavioral Sciences, Second Edition, Amsterdam: Elsevier Inc., 796–801.↩︎
桧垣伸次,2010,「ヘイト・スピーチ規制と批判的人種理論」『同志社法学』61(7): 2348.↩︎
金尚均,2024,「ヘイトクライム:暴力化する差別犯罪」櫻庭総・奈須祐治・桧垣伸次・金尚均編『ヘイトクライムに立ち向かう:暴力化する被害の実態と法的救済』日本評論社,4.↩︎
武井彩佳,2021,『歴史修正主義:ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』中央公論新社,3.↩︎
キムリッカ,ウィル,2005,『新版 現代政治理論』千葉真・岡﨑晴輝訳,日本経済評論社,504.↩︎